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樹の家

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家に大切に持ち帰った図面を父の正面に座り、広げました。
父の驚きは、上司以上でした。
「おいおい、このこれ…」
「お父さん、落ち着いて。そうそうよ」
「そんなことを言ってもな。この柱になっているのって あの樹だろ?」
「そう、あの樹。ずっと昔から育ってきたあの樹をそのままに家を建てるの」
「そんなこと無理だろ」
「会社の人はそうは言わなかったわ。『秘密基地だな』って『水やりがいるぞ』って」
父は、腕組みをしたまま、じっと図面とにらめっこをしている状態だった。
「あたしは、住んでみたいと思うわぁ」
「おまえ、無責人なことを言うなよ」
「あら、庭師さんに『奥さん、あの樹は精霊が宿っている、大事にしなさいよ』って言われたわよ。これからも庭師さんにお願いしないとね」
まったく、この母に私は何度気持ちを救われたか。子どもみたいで大人で可笑しいけど頼りになると思っている。
「楽しいのは お父さんだってわかる。でもこの樹がもっと成長したらどうするんだ?」
「その点は、もっと詳しく会社の人が説明するって。何でも【リフォームしながら 永年暮らしていける家】だって。新たな提案になるかもって大乗り気よ。だからお父さんがオーケーしたら 事務所に来て欲しいって」
「事務所に?」
「あ、お願い致します。ね、私の初営業なのよ。契約取れたら 私正社員になれるかもしれないし、それに……」
私は、部屋から持って来ていたあの絵を見せた。
「ずっとこの絵の家をつくりたかったから お願いします」
「そうだなぁ……」
「お父さんの建てた家を 私は大事にするから」


現実の話なのか、夢の理想なのか、事務所で話す上司と父は、お互い少年のような瞳をしていました。日に日に乗り気の父は、決め事にも積極的で、施工も順調に始まりました。
老朽化した木造家屋の取り壊しはさほど大変ではなさそうに思えたが、太い梁と頑丈な柱は、長年家族を支えてきたように感じました。今となっては、なかなか手に入らないそれらも十分に利用したおかげで予算も微々たるものでしたが抑えられたようで 母は喜んでいました。


完成した家。
私の絵が抜け出したように それ以上に素敵です。


作品名:樹の家 作家名:甜茶