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樹の家

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夢。

私は進学した学部からの就職を勧められないだろうバイト先を見つけました。
誰かを幸せにできる? 
そんな漠然とした気持ちでしたが、興味はどんどん深まっていきました。
毎日コピーを取ったり、配布資料を綴じたりするだけでしたが バイトに入れただけでも嬉しかった。事務所での様子を見たり聞いたり、帰り道に書店で本を探したり、こういう処に就職できたら夢が身近に感じられる気がしました。


そんな夢を 実現できる……かも……しれない。
誰かじゃなく 私を幸せにできる。


住んでいた家の老朽化。
そして、父の長年の思い。
『父の代で家を建て替えること』

ある日私は、バイト先の上司に一枚の絵を見せました。
バイトから帰ると、授業の予習ではなく、鉛筆で小指の付け根あたりから掌の側面を黒くしながらあの絵を描きなおして 色鉛筆で所どころ色付けして もっと具体的に描いたものでした。
上司は、その絵に驚きました。馬鹿な事をと内心は苦笑していたでしょう。
でも、私を見返す目はとても優しく、少年のような冒険に楽しそうに見えました。
「これを 実現したいの?」
「はい」
「秘密基地だね。なんだか懐かしい。でもこれ生きてるんだよね」
「はい」
「今はなんとも言えないけど、僕に線引かせてくれないかな? あ、期待はしないでよ」
「よろしくお願いします」

その話は、しばらく立ち消えましたが、二週間ほど過ぎた日の事。
上司に呼ばれて 応接室へと行きました。
「この施主様に了解を貰ってきて来てください。初めての営業ですよ。大丈夫ですか?」
私は、その図面に手が震えました。
私の描いた絵が 数枚の図面になっていたのです。
「オーケーなら、この後はこの応接室でしてもらえれば、僕も細部の説明もするから」
「……ありがとうございます」
潤みそうな目をしばたきながら やっと頭を上げることができました。
「まだ ゴーは出てないからね。頑張って」
「はい」
「じゃあ、仕事の続きも頑張ってよろしく」


作品名:樹の家 作家名:甜茶