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海野ごはん
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novelistID. 29750
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‘50sブルース ララバイは私が歌ってあげる

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玲二の久しぶりの身体は相変わらずすべすべしていた。シーツの中で美和は懐かしく玲二の身体全部をまさぐる。玲二も心の隙間を埋めるかのように美和の身体を求めてきた。丸くぽっかり開いた穴を四角で埋めようとするものだから玲二の失恋の心の痛みは治りはしない。わかっていても玲二は目の前の美和の身体に全てを埋めることで痛みから逃げようとしていた。
そして、それをわかっている美和は全部受け止めた。彼が言った「最後の砦、防波堤」の言葉に甘んじられるほど強くはないが、目の前の好いた男が私を頼っている・・事が嬉しく感じた。この裸の彼は今、私のもの。私だけのもの。
美和は玲二の背中に手を回すとギュッと力を込めて抱きしめた。覆いかぶさってくる玲二の体重を全体で受け止め、それから彼の涙全部をすくい取ってあげた。


少年のように求めた玲二が寝静まったのは午前0時だった。そしてそれから美和は1時間ほど眠れなく彼の横で目を閉じていたが、どうにも目が冴えて眠ることが出来なかった。夕食で頼んだワインの瓶にはまだ3分の1ほど、赤い液体が残っている。
グラスに注いで、静かに窓を開けバルコニーに外に出てみた。
降りそうだった雨は二人が抱き合っている間に一度落ちたようだ。そして雨雲はまだ残っているのだろう、星は何も見えなかった。
対岸には街の灯、そしてこのホテルとの間には真っ黒な海が流れている。海峡の流れが川のように動いてるのが岸辺やホテルのネオンの明かりで見えた。

グラスから赤いワインを喉に流し込んだ美和は出張で留守の夫を思い出した。
どうせ連絡の電話も入ってないだろう。それでも習慣的に電話チェックをするために部屋に戻りバッグの中から携帯を取り出し、受信を見た。
誰からもかかっていない。
哀しいほどに、受信には誰からもコールが届いてない。
誰もが自分の世界で生きていて、私を気にする人はいないということが改めてショックだ。
私を気にしてくれてるのは気まぐれで、売れない女たらしの玲二くらい。
笑ってしまう・・・と美和は自分の携帯をバッグに投げやり、またバルコニーに向かった。

「アッ!」

と驚いたのは、音もなく目の前を航海している大型タンカーを見つけたからだ。
流されるように静かにタンカーは左から右へ進んでいた。暗闇の中、明かりも最小限に落としてるのであろうビルのような固まりが目の前を進んでいる。
バスローブがはだけて、自分の裸が見られてるのではと思い、美和は慌てて胸元の襟を掴み閉じた。
まさか・・・こんなおばさんに・・・。
暗闇の中一人で慌てて隠した自分におかしくなり、笑った。
玲二もいい歳だが、私も若くない。いつまで彼は私を求めてくれるんだろう・・と美和は改めて自分の裸を見た。落ちてきた乳房、少々だぶついた腹、そして体全体緩んだような締りのなさ。若い時と比べたら当たり前なのだけれど、この現実感が容赦無い。
いくつまで男は私を求めてくれるんだろうか?
玲二以外でも私を求めてくれるんだろうか?
自信がない・・・。
やっぱり玲二が最後の恋になるのかしらね・・・そんなことを思いながら、美和はまたグラスにワインを注ぎ足した。