‘50sブルース ララバイは私が歌ってあげる
部屋の中から携帯のバイブレーションが無音で響いていた。
ソファーに放り投げてた玲二の携帯が鳴り震えていた。美和は歩み寄って手に取ると、
着信に見知らぬ名前の女性の名前が出ていたのを見つけた。
そして、数秒で切れた。
別れた彼女?
心がざわついた。
それから、今度はメールが着信した。
美和は玲二を見た。寝息を立ててぐっすり寝ている。悪いと思ったが美和はそのメールを開いてみた。
“玲二、起きてる?ごめん 謝りたいの
よりを戻したいと思ってるから電話してくれる?“
玲二の女からだった。
美和の心臓は破裂しそうに、大きな鼓動を打ち続けた。
そして、いっぺんに嫉妬の念が湧いた。
玲二と携帯を交互に見比べた。
心の中の大きな固まりが更に大きくなって、爆発しそうだった。
急に息苦しくなった。
美和は玲二の携帯をソファーに置くと、気を落ち着かせるように外のバルコニーに出て行った。
そして、残り置いておいたワインを空になるまで飲んだ。
海風がよそよそしく過ぎてゆく。
心臓は相変わらず早鐘を打っていた。
海に向かって、フゥ~!と息を吐くと美和は部屋に戻り、先ほどの玲二の携帯の電源を入れた。同じ機種だから操作はわかる。
先ほどのメールを呼び出し・・・消去した。
彼女からの着信履歴も消去して、何事もなかったように操作を終えた。
ごめん、玲二・・・明日、私がやさしくするから・・・・。
狭い海峡にはまた、一隻のコンテナ船がゆっくり漆黒の海を航海していた。
音も立てずに。
(完)
作品名:‘50sブルース ララバイは私が歌ってあげる 作家名:海野ごはん