通り過ぎた人々 探偵奇談5
ゆく夏と
カレーを煮込む間、縁側に新聞を敷いて、郁は前髪を切ってもらっている。
「こう、右にスーッて流したいの。ぱっつんはヤなの」
「こっちを長く?」
「そう。目にかからないくらいで、こうね。ナナメ命!この角度!」
「めんどくせえなあ」
鏡を持ち、郁は細かく指示をする。前髪ひとつで雰囲気は変わってしまう。絶対に失敗したくないからいつも美容院へ行くのだが、瑞は勿体ないと言うのだ。彼は自分で髪を切っているのだという。うまいものだ。彼の緩くふわふわした髪は癖毛だという。
「やー変にしないでね?」
「お願いしといて文句言うんじゃないの」
瑞がコームとハサミを動かしているので郁は目を閉じる。
「ねえ、神末先輩と喧嘩でもしてるの?」
郁は気になっていたことを聞いてみた。
「してる」
即答だ。
「やっぱり…」
「つうか、俺が一方的にムカついてるだけ」
それももう、おしまいだけど。
瑞がそう呟くのを聞き逃さなかった。
「よしいいよ、目―あけてみて」
「あ、いい感じいい感じ!理想的ナナメ~!」
作品名:通り過ぎた人々 探偵奇談5 作家名:ひなた眞白