通り過ぎた人々 探偵奇談5
瑞の部屋も家具も、どこかレトロな雰囲気だった。木製の机と、背もたれが丸みを帯びた椅子。ベッド、桐箪笥。本棚も窓枠も、懐かしい雰囲気を醸し出していて、不思議と落ち着く。香りのせいかもしれない。時間が止まったかのような温かな雰囲気。
「先輩」
ガタガタと籠を戻しながら、視線を寄越さず瑞は言う。
「今日、来てくれてありがとうございます」
改めてそんなことを言う瑞の背中を見つめる。
「俺へんなことばっか言うから、もう愛想つかされたかもって思ってた。よかった」
立ち上がって笑う。振り返った彼はいつもの笑顔だ。それなのに、妙に寂しそうで。我慢している子どもみたいにいじらしくて。
(俺は)
――俺はまた、こいつにこんな顔をさせるのか?
浮かんできたのは激しい後悔と、自身に対する怒りだった。
逃げるのか。見たくないことから、得体のしれない恐怖をたてに目を逸らして。必死で向き合おうとしていた瑞の思いを踏みにじって。踏みにじられた瑞に、また気遣わせて。
「先行ってますね」
瑞が行ってしまう。何も答えることができなかった。鉛を飲んだように、伊吹の身体は重く動かなかった。
作品名:通り過ぎた人々 探偵奇談5 作家名:ひなた眞白