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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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通り過ぎた人々 探偵奇談5

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逆光で表情は見えないが、怪訝そうな声色だった。伊吹はよほどぼんやりとした表情を浮かべていたらしい。瑞は重ねて大丈夫かと心配そうに問うてきた。これは現実だ、大丈夫…。

「あの、猫が…」

猫、と聞き返し、伊吹は小さく笑う。

「ああ、ちくわ?」
「…ちくわ?」
「近所の、大石のばーちゃんちの猫。たまに窓から入ってくるけど、行儀いいし悪さはしないよ」

そういうと伊吹は窓を閉めカーテンを引いた。電気をつけると眩しさがはじけ、伊吹は目をすがめる。

「もう一匹黒いのがいてね、へそっていうの」
「へそ…?」
「意味わかんないでしょ。でもかわいーんだよ、あの二匹」
「へそって…なんだそれ」
「あ、ツボっちゃった?」

吹き出した伊吹を見て、瑞が嬉しそうに笑った。年相応のあどけない笑顔だった。

「なんか一之瀬が前髪切ってほしいっていうから、ハサミ、ハサミ…どこだっけ」
「前髪?」
「あいつ前髪切るためだけに美容院行くっていうから。もったいない、俺これ自分で切ってるんだよって言ったら、じゃあ切ってって」

調理中に、髪の話になったのだという。伊吹はカラーボックスの籠をあさっている。明るくなった部屋には、二人以外の気配はない。先ほどのあれは、幻覚だったのだろうか…。

「あった、ハサミ」