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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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通り過ぎた人々 探偵奇談5

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夕焼け空の下を自転車で走り、郁は伊吹とともに瑞の家にやってきた。静かな山間の集落、坂を上ったそこに小奇麗な平屋が建っている。瑞はここで、祖父と二人で暮らしているという。

(きれいなところ…)

自転車をとめ、その小さな集落を見下ろす。夕日に照らされる田園風景に郁は見惚れた。美しくて、時間が止まっているかのようだった。稲穂が風に揺れるさわさわという音が優しく耳をすぎていく。

「ごめんくださーい」

坂を上った先にある平屋、玄関の前で呼びかけてみるが返事はない。

「おうちのひと、いないんですかね」
「あいつも寝てるかもしれないしな」

どうしようか、と二人で逡巡していると、ガラス戸の向こうに影が映り、瑞が顔をのぞかせた。驚いている。

「あれ…なに、どうしたの?」
「お見舞いとお届け物にきたよ。身体どお?」
「まじで?わざわざごめんな」

Tシャツにハーフパンツ、ぼさぼさ頭の瑞だったが、思ったよりも顔色はいい。彼は礼を言ってから中に入るよう促した。

「先輩も、すみません。遠いのに。熱は下がったんだけど、まだ怠くて。お医者さんは夏バテだって。あがって下さい」
「じゃあ、ちょっとだけ」
「おじゃましまーす」

風通しがいいのか、家の中から心地よい風が吹いてきた。ひんやりとした木の廊下に夕日のオレンジが差し込んでいる。見上げれば立派な梁があった。和風の落ち着いたたたずまいの家。どこかで風鈴が鳴っている。

居間に案内されると、伊吹が麦茶を入れてくれた。

「熊倉先輩からおみやげのお菓子と、あと今日の補講で出た課題と、休み明けに出せっていうプリントね」
「ありがとう、助かるよ」
「あとこれポカリとか食べやすいもの」

おみやげやプリント類を渡す。臥せっているところに課題とは酷だったかもしれないが、締め切りが近いので渡しておく。

「じいちゃんはいないのか?」
「畑、行ってるんです。もう戻ると思います」
「一人で大丈夫だったのか?」

伊吹の問いかけに、うん、と瑞が柔らかく笑う。