通り過ぎた人々 探偵奇談5
行き止まりの心
「え、お休み?」
朝練に顔を出した郁は、瑞が体調を崩して休んでいることを伊吹に聞く。
「珍しいですね、夏バテかなあ」
「うん…」
伊吹はというと、なんだか朝から暗い。何か思いつめたような横顔が郁は気になった。このひとも夏バテかもしれない。主将の重圧もあるだろう。何だか気が乗らないまま朝練が始まり、静かに行射が進んでいく。
「これ、おみやげー!」
練習終わりに、お盆休みに田舎に帰省したという先輩が、部員らにおみやげを配ってくれた。箱に詰まった和菓子だった。わいわいと集まりいただく。
「残った一個は須丸のなんだけど、あいつ休みか。このお菓子足が早いんだよね。冷蔵庫に入れといたら大丈夫かな」
「あの、あたし補講終わったら届けます」
「いいの、郁ちゃん。じゃあそこの冷蔵庫に入れとくね」
どうせ補講のプリントも届けてあげなければいけないし。
「あ、でも家知らないや。どこだっけ」
「俺知ってる。一緒に行こう」
伊吹がそう言ってくれ、二人で見舞いも兼ねて訪ねることに決まった。
作品名:通り過ぎた人々 探偵奇談5 作家名:ひなた眞白