通り過ぎた人々 探偵奇談5
よかった、元気そうだ。郁は伊吹と顔を見合わせてホッとする。縁側から風が入り、風鈴を鳴らす。小奇麗な庭にはひまわりが揺れていた。きょろきょろしている郁を、瑞が笑う。
「なに、そんな見て」
「え?!ごめん、素敵なうちだなーって思って!」
イマドキな郁の家とは全然違う。和風の畳の匂いが心地よい家は妙に落ち着く。ヒグラシの声も、さわさわ揺れる笹の音も、心を静かにさせていくようだった。
「ただいま」
玄関から声がした。じいちゃんだ、と瑞は言った。日に焼けた作業着姿の老人が顔を出し、おやと笑った。優しい表情だった。白い髪。笑うと目じりに皺が寄り、どことなく瑞に似ているなと郁は思う。
「おじゃましています」
「こんばんは」
伊吹と揃って立ち上がり、頭を下げる。
「この前来てくれた先輩と…この子は同級生の一之瀬さん。お見舞いもらった」
「それはわざわざありがとう。瑞がいつも世話になっております」
こちらこそ、と郁も頭を下げる。柔らかな雰囲気に日の匂い。年配のひとと接することなど殆どない郁だが、緊張感や威圧感は感じなかった。
「気分はどうだ、瑞」
「もう元気だよ。腹減ったなあ」
「食欲があるみたいでよかったよ。そうだ、今夜うちはカレーなんだけど、よかったら一緒にどうだい」
「え、カレーですか?」
「瑞のリクエストでね。夏野菜カレー」
具合悪いのにカレー、と郁は吹き出す。子どもみたい。
「うちのカレーうまいよ。早く帰る用事あるなら無理にとは言わないけど」
瑞が言い、じいちゃんもぜひにと誘ってくれるので、郁らはお言葉に甘えることにした。
畑で採れたばかりのナス、ピーマン、トマトにカボチャ。じいちゃんが手際よく包丁を使うのを、郁は見つめている。手伝いますと申し出たが、これでは足手まといである。じいちゃんは笑って、申し訳なさそうな郁に、ちゃんと仕事をくれるのだった。気遣いに、心が温かくなる。
作品名:通り過ぎた人々 探偵奇談5 作家名:ひなた眞白