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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅲ

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(第四章)ハンターの到来(4)-スパイ嫌疑②


 
 次の日、美紗は自席でぼんやりと座っていた。周囲は、頻繁に鳴る電話の呼出音や人の話し声で、ひどく騒々しかった。
 いつもの「直轄ジマ」の光景が、なぜか異様に感じられた。慌ただしい時間の流れから、自分ひとりだけが切り離されたように感じる。シマの誰かが何か言っているが、早すぎて聞き取れない。

「聞いてるのか、鈴置!」
 大声で名前を呼ばれ、美紗はやっと声のするほうへ振り向いた。背後に先任の松永が立っていた。
「5部がよこしてきたペーパーは、チェック終わったのか!」
 キーボードの上に置かれた美紗の手は、しばらく前から完全に止まっていた。昼過ぎに頼まれた単純な作業が、二時間経っても半分ほどしか終わっていない。
「すみません、まだ……」
 美紗は生気のない顔で呟くように答えた。前日に統合情報局のデータベースからロックアウトされていた美紗のIDは、朝から使えるようになっていた。しかし、それでスパイ嫌疑が晴れたことになるのかは分からなかった。第1部長の日垣が、別の思惑でアクセスを許したということも考えられる。
 当の日垣からは、まだ何の話もなかった。自分はやはり信用されていないのだろうか。上官に疑われたまま、これからずっと勤務することになるのだろうか。美紗の頭の中はそんな思いに占領され、とてもパソコン画面に表示される文書を読むどころではなかった。

「何やってんだ。内容が情報要求に合ってるか見て、表記を統一するだけだろ。9部の報告書と合わせて、今日中に海幕(海上幕僚監部)に出さなきゃならないんだぞ。すり合わせする時間がなくなるだろうが」
 松永は苛立ちも露わに声を荒げた。美紗は何か言いかけて、下を向いた。口は荒いが面倒見のいい松永は、きっと自分の話を親身に聞いてくれるだろう。しかし、他言無用を命じた第1部長の鋭い目を思い出すと、声が出ない。
「回答期限は『今日中』なんだから、日付の変わる一分前に持ってきゃ文句言われんよ。海幕の奴らはどうせ二十四時間営業なんだし。そんなカリカリしなくていいだろ」