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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅲ

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 同じ案件で、技術情報を扱う第9部との調整を担当していた比留川は、珍しくのん気な口調で二人の間に割って入った。普段、毒舌の多い直轄班長は、ナンバー2である松永の機嫌が悪い時だけは、なだめ役に回るのが常だった。
 松永は、「全く」と悪態をつくと、書類が挟まったバインダーを二つ、美紗の机の上に放り投げるように置いた。
「日垣1佐のとこに入れとけ。急ぎじゃないから、未決箱に投げておけばいい。ついでに、顔洗って来い!」
 美紗は、ろくに返事もせずにふらりと立ち上がると、バインダーを手に取り、よろめくように第1部長室へと歩いて行った。それを、「直轄ジマ」の一同が怪訝な顔で見送った。
「あいつ、今日は朝からずっとあの調子だな。使い走りにもならない」
「昨日、うまくいかなかったんすかね?」
 とげとげしい言葉を吐く松永をちらりと見ながら、片桐が、斜め左に座る宮崎に小声で話しかけた。宮崎が顔を上げる前に、比留川が即座にその疑問を否定した。
「そんなことなかったぞ。鈴置の議事録見たが、かなりいい出来だった。まあ、俺は会議そのものには出てないが……。日垣1佐も特に直しなしでOK出したそうだ」
「じゃあ、昨日の疲れだっていうんですかね? でも鈴置の奴、昨日は定時ジャストで帰ったそうじゃないですか。自分に何の報告もなく」
 松永は不愉快そうに自分の席に戻った。前日、米国との情報交換会議の最後のセッションに出た松永は、五時すぎまで長引いた会議の後、建物一階のエントランス付近で顔を合わせた同期につかまり、くだらない人事の噂話に付き合わされた。さほど長話をしたわけでもなかったが、彼が「直轄ジマ」に戻ってきた時には、すでに美紗は帰宅してしまっていた。
「定時で帰るなとは言いませんけど、定時で帰られちまうとは思わないでしょう、普通」
「帰っていいって、日垣1佐が言ったんだろ?」
「そうです。『鈴置さん疲れてるだろうから、早く帰してやれ』って」
 佐伯が比留川の問いに答えた。前日、日垣は、ちょうど美紗が議事録を作り終えた頃に、二度目の連絡を入れてきた。彼は、美紗の仕事の進捗状況を確認すると、出来上がった議事録を部長室に入れるよう指示し、さらに彼女を即刻帰宅させろと命じた。電話を受けた佐伯は、それを新米職員への単なる気遣いと解釈した。