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~そこまで~(番外編)

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 湊人は右にウィンカーを出してゆっくりと本線に合流した。ちょっとぎこちないのが伝わって来るが、同級生とドライブすることは背伸びをしたような気になって悠里は少しわくわくした。
「さあ、どこ行こうか?」
 車だったら普段行けないところへ行ける。悠里はここから行けそうな、それでいて行ってみたいところを思い浮かべた。
「掬星台行かへん?夜景、キレイやで」
 悠里は背もたれから身体を起こし、目を大きく開いて右を向くと、湊人は急に背筋を伸ばしておどけた顔を見せた。
 掬星台というのは、六甲山の西・摩耶山上の展望台で、悠里たちの通う学校のすぐ裏にあって、お互いにそこが有名な夜景スポットであるのを知っている。剣道部で毎日稽古に励んだ悠里は日がな健脚修行と言って何度か登ったことがあるが、それは日中の話で夜間は行くことがない。小さい頃、年の離れた姉に車で山上まで連れていってもらったことを思いだし、車に乗っているのをいいことに運転する湊人にねだってみると苦笑いの声が漏れてきた。
「でも、俺の運転技術じゃあちょっと……」
 信号待ちをした時にこぼれた湊人の本音。免許を取ったばかりの人間には山道かつ一部雪が残る夜の道は自信がない。
「じゃあ海から山を見ようよ。ポートアイランドからもキレイねんで」
 悠里は夜景が好きだ。海沿いから見る山の夜景も美しい。これは5つ上の兄にスクーターで連れていってもらったことを思いだした。
「倉泉は夜景、好きなんだな」
湊人はハンドルを回しながら海の方へ進路を取った。目一杯背伸びをして車で来た湊人だが、自分より慣れていることに少し驚いた表情で悠里を見る。
「うん。静かな夜景が好き。気分を鎮めてくれる」
 悠里は小さく微笑んだ。湊人の持つ悠里のイメージは、剣道で大声を張り上げ、学校の文化祭でゲリラライブをやってのけ、さらに、現役のロックシンガーでステージで暴れまわっているような兄を持つような女子だが、落ち着いて見るとそんな様子をまるで感じないような落ち着きと静かさと、そして少しの暗さが見える。助手席に乗る彼女の横顔に違う一面を見て妙に引き込まれ、左を確認するふりをして彼女の顔を見つめた。

   * * *

 悠里も前を見つつチラチラと横を見る。運転が拙いのは当たり前だけども自分に何かをしてあげたいという気を感じるとどうしても意識する。
「カッコいいね」
 ハンドルを握る同級生が大人びて見える、その横顔を見て思った言葉が悠里の口から漏れた。 
「そりゃ、居候の身だから足にならなきゃなんない時も、あるからさ」湊人は左手で一度鼻を擦り、左を一瞬見ると視線を前に戻す「進路決まったら、倉泉も免許とればいいじゃん」
「あたしは、まだ免許の取れる年齢になってへんねん」
「え?そうなの?」左折の途中で一旦停止「もう3月だよ。誕生日まだってことは倉泉は3月生まれなんだ」
「うん。それも31日やねん。だから二日遅れて生まれたら坂井君とは同級生じゃなかったんよ」
 悠里が答えると湊人は前を向いたまま唇が動いたのを見たが、くぐもって言葉にならない音として耳に感知した。
「何か言うた?」
「いや、何も……」
 湊人は一瞬身震いしたような仕草を見せると、あわててハンドルを握り直した。車はネオンと街灯で明るい繁華街の中心を抜けて、海の方へ進んだ。

作品名:~そこまで~(番外編) 作家名:八馬八朔