歪んだたより 探偵奇談4
サイン
朝練が台無しだ、と瑞が口を尖らせている。善は急げと、伊吹らは怜奈に案内されて例のワンルームマンションに来ていた。新興住宅地の中に建つ、レンガ造りの新築マンションだ。五階建て、部屋数は少ないようだが、エントランスには管理人か警備員だかが常駐しているのが外からも見えた。
「俺んち、そっちの通りまがったとこなんだけど」
伊吹は周囲を見渡しながら言った。
「このへんは治安もいいし、墓場なんかないし、心霊現象が起きるなんてちょっと考えられないよ」
伊吹の家も、この新しい宅地に建っている。新しい住宅地だ。駅にも近く、交通の便もいい。通りは夜でも明るく、怖い雰囲気とは無縁である。
「問題あるとすれば、怜奈さんの部屋自体だと思うんだけど」
「なんともいえないけど…新築だよね、これ」
瑞がマンションを見上げて言う。
「古い廃墟ならともかく、いわくつきには見えないけど」
それは伊吹も同意だった。
幽霊が出る、といえば、築ウン十年、裏には墓地があって、その土地はその昔刑場で…といたいわくがありそうなものだが、このマンションは明るい雰囲気だし、きれいだし、周囲にはおしゃれなケーキ屋さんだとか美容院が並んでいるのだ。
「あの、実はここ男子禁制で…」
怜奈が言い、ちらりとエントランスを見る。じろり、とこわもての管理人が伊吹らを睨んでいる。
「一之瀬、GO!」
「えっあたしが入るの!?」
瑞に言われ、郁が飛び上がった。
「こ、怖いよ!女装してついてきてよ!」
「そんなのばれたらカーチャンにぶっとばされる!」
「え~~!?」
「俺と伊吹先輩は、マンションの周り見て回ってるから」
「やだ~~~!!」
作品名:歪んだたより 探偵奇談4 作家名:ひなた眞白