歪んだたより 探偵奇談4
「…わたし怖くて、もうどうしていか」
俯く怜奈に、瑞が初めて言葉を発した。
「おじさんの家に行けばいいんじゃないですか。どう考えても危険でしょう。出るべきです」
その通りだ、と郁も思う。そんな部屋、一刻も早く出るべきだろう。
「…自分から無理を言ってさせてもらった一人暮らしを、簡単に辞めるとはいえなくて」
呆れたように、瑞が息を吐く。まあ、彼女の気持ちもわからなくはないが…。
「一体何が原因なのかがわかれば、対処できるかもしれない。友だちには笑われるだけで信じてもらえないし、わらにもすがる思いでここに来ました」
どうかお願いします、と彼女は瑞に頭を下げた、栗色の髪が、夏服の痩せた肩に流れて美しかった。瑞は腕を組んだまま黙っている。
「ねえ須丸くんっ」
見かねて郁は彼の肩を叩いた。何とか言ってよ、と。
「…俺は霊能者じゃないし悪魔祓いができるわけでもないです。解決できますって約束はできません。あれが見えた、これが見えたって、視えたものをありのまま伝えることしか」
それでいいです、と怜奈が顔を上げた。
「じゃあ、わかりました」
「あ、ありがとう…」
「期待しないで下さいね。吹聴もしないで下さい。どんな結果になっても、後悔しないで下さい」
怜奈は神妙に頷いた。
「それでどうするんだ、須丸」
伊吹に問われ、瑞はとにかく建物を見たいとそう言った。
「行ってみましょう。でも先輩、俺ね」
瑞は、依頼人の怜奈には聞こえない声で、こう続けた。
「これは怖いですよ、冗談抜きで」
怖い?彼にはもう、何かが視えているのだろうか。
瑞の言葉の真意を、こののち郁は、身をもって知ることになる。
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作品名:歪んだたより 探偵奇談4 作家名:ひなた眞白