歪んだたより 探偵奇談4
それ以外の誰でもないはずだよな?
「俺は瑞だよ、あんたの前ではいつでもね」
心を読んだように、瑞が言った。もう笑っていなかった。
「思い出すまで、何回でも生まれる」
動けない。声も出せない。棒のように立ち尽くす伊吹の耳に、瑞の声が降る。
「ちゃんともとに戻すまで、なんべんでも繰り返すんだ。あんたも俺も」
その言葉が、自分の中の意識の届かない内側にしみこんでいく。まるで何か、深刻な意味があるかのように刻まれていくのだった。
「………」
気が付いたときには瑞の姿はなく、伊吹は一人だった。生ぬるい夜風の中に、ほんのりと甘いイチジクの香りが残っている。
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作品名:歪んだたより 探偵奇談4 作家名:ひなた眞白