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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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歪んだたより 探偵奇談4

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失われた名前



バカなことをした、わけのわからない話で怒らせて、挙句の果てに逃げてきた。瑞は近所の公園のブランコに座り、盛大に肩を落とした。

(…気のせいだって言われればそれまでかもしれないけど、もうそんなの受け入れられない)

もう絶対気のせいではない、あのひとと自分には因縁がある。それがどうしてなのか、なぜこんなに苦しいのか。それを解き明かしたいのに、伊吹はそれを恐れ扉を閉ざそうとする。開けるな、と。

スニーカーの底で砂を蹴とばす。硬い感触がした。

(俺なにしてんのかな)

自己嫌悪が沸いてくる。伊吹のことだから、今頃同じようにもやもやしているだろう。飛び出してきたけど、もっと伊吹の言葉を慮るべきだったかもしれない。ここにいればという言葉を、拒絶されて出ていかれ、どんな気持ちでいるだろう。

(あー弓引きたい)

頭を空っぽにしたい。ブランコをこいで忘れることにする。夜風が生ぬるくすぎていく。

(あ、この匂い)

目を閉じると、風にのって言葉にできない香りが漂っているのがわかった。それは夜の匂いとでもいうのか、のんびりとすぎていく夏の独特の匂いで、急に懐かしくなるのだった。

(じいちゃんとばあちゃんと過ごした、夏の匂いだ…)

縁側から見えた星空と、祖母の優しい手と、夏蒲団。蛍。青みがかった闇。草。夏の匂いって、どうしてこんなに切なくなるんだろう。もう戻らないと分かっているから、よけい恋しいのだろうか。

(…ばあちゃん)

もう二度と会えないんだなあと、今更ながら思う。夢で会えても、それは幻だ。人を失うということは、こんなにもつらい。会える間に、もっと話したいことがあったのに。そんな後悔ばかりが頭をよぎっていく。