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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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歪んだたより 探偵奇談4

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だって…

伊吹の中の誰かが言う。

だってあんなにつらくて、それでもけついしたのは、こいつのためなのに

「先輩?」
「思い出したらだめだ」
「え?」
「おまえのためなんだよ」

先輩、と瑞が眉根を寄せて覗きんこんでくる。

「思い出したらだめだ。どんな思いで、俺が、俺たちが、瑞の幸せのために、」

そこで伊吹は唐突に、勝手にしゃべっている自分自身を自覚する。

「は…?」
「先輩?」
「……俺、何か言った?」
「言ったじゃん!なに?続き、言って!早く!」
「え…?」

誰だ、俺の口を使って勝手にしゃべったやつは。わけがわからない。瑞がおかしなことを言うからだ。そうに決まってる。

「もうこの話題はなし」
「でも!」
「…頼む」
「…はい」

有無を言わさず黙らせて、沈黙に耐えかねて空になった皿をシンクに運ぶ。どうしてだろう、いつもこうだ。この話題に触れると言葉を飲み込んで黙ってしまう。重苦しい沈黙ばかり。水を出して椀を洗う。食卓にかけたままの瑞の背中は微動だにしなかった。

(なんでこうなるんだ)

わけのわからない不安を瑞にぶつけて勝手に怒って。なんて情けないのだろう。自分は先輩なのに。

(もう、考えない)

わけのわからない既視感に振り回されてどうするんだ。過去が何だろうが前世が何だろうが、いまの自分たちになにも関係ないじゃないか。そんなおとぎ話めいたものに興味など持つ必要なんてない。いま生きているこの現実だけがすべてなんだから。