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「おい須丸、どうしたんだよ」

戸惑いながら言う伊吹を、離れた国道沿いまで引っ張ってきてから、瑞はふうっと息を吐く。

「なんかおまえ冷たくないか。矢継ぎ早に質問だけして…。一之瀬に任せていいのかよ」
「じゃー先輩が女装していく？」

俺は絶対ごめんだから、と瑞は腕を伸ばして伊吹の前に掲げた。

「みてこれ、スッゴイ鳥肌」
「…おまえ大丈夫か。そういや、顔も真っ青だぞ」

そうなのだ。真夏なのに、寒いくてたまらない。平静を装っているけど、奥歯がカチカチなっているのだ。恐怖で。

「さっきも言ったでしょ。俺ほんとだめ、今回怖いの。俺が、怜奈さんの後ろに見えてたもの、言ってい？」
「…言うな！」

これはやばいと察したのか、伊吹が両耳を塞ぐ。

「言ったでしょ、原因は部屋じゃないって。怜奈さんについてるものなんだって。それも、すさまじい悪意の塊だよ。俺、見えないフリするので精いっぱいだった」
「…そんなやばいものなのか。でもおまえ、うまくいけば今日で最後にできるかもって」
「うん、それは嘘じゃないよ。なーんも感じない霊感ゼロの一之瀬には、危害もないから大丈夫。まあ、多少怖いものは見るかもしれないけど」

夢の中で、祖母が警告していたことを思い出す。悪意は、様々なことを引き起こすと。

悪意。それはどんな人間も持っている感情である。
死者よりもむしろ。

生者こそが隠し持つ強い感情なのだ。