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海野ごはん
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オールド・ラブ・ソング

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「逃避行」





夕方になり照夫が戻ってきた。
「どうなった?」
「二人きりでいるわ。相続の件、何とかならないかしら」
陽子はあきらかに頭に来ていた。
「無理なんじゃないかな」照夫もどうにかしてあげたかったが、人様の台所事情においそれと入るわけには行かなかった。ましてや、家族から見れば「愛人」は敵だ。
ちかえのことを思うと寂しいが、出会えただけでもよかったじゃないかと思っていた。
施設の方で何か騒ぎが起きてるらしかった。やけにバタバタしている。
そこに和子が入ってきた。
「大変!高橋さんとちかえさんがいないのよ・・・」
「えっ!」二人は和子とともに施設の中を探し始めた。
他の職員たちもざわめき立っている。
「高橋さ~~ん、ちかえさ~~ん」声を出しながら館内を廻った。
どこにも見当たらなかった。


ちかえは背広を着た次郎と列車の中にいた。
潮の浜温泉までの切符を持っていた。
何も言わない温和な次郎の顔は楽しそうだった。ちかえもまた楽しそうにしていた。
二人で旅行するのは初めてだ。彼らの遅くなった新婚旅行だった。
騒ぎとは関係なく、人生の旅をする二人に誰が非難できようか。
二人を乗せた列車は昭和の時代に逆戻りするタイムトレインのようだった。
せっかくの出会いの計らいに申し訳なく思い、ちかえは途中の駅から施設の和子宛に電話した。そして照夫と陽子に感謝の言葉を言うと「連れて帰る」事を告げた。
何度も電話に向かってお辞儀をした。そして謝った。


「どうする?」陽子。
「とにかく行き先がわかっただけでもいいじゃないか」照夫。
「あ~親族の方になんて説明しよ。困ったわ~」和子。
「今からはもう追いかけられないよ。時間が時間だし」
「それにしても大丈夫かしら」
3人はちかえと次郎の逃避行に困ったを連発しながらも心の中で拍手を送っていた。
私なら出来るだろうか?
陽子は愛の結びつきに何かを突きつけられたような気がした。
愛を信じないで不倫を重ねた自分が、ちかえほどの行動が出来るはずがない。
どうしてそこまで人を愛せるのか。
人と人が愛し合うのはお互い正面を向き合った時から出来る事なのかも知れない。私は夫に対しても照夫に対しても正面から向き合ってるのだろうか。どこか逃げているのかもしれない。
本当の愛を求めているのならば、私はどちらと向き合おうとしてるのだろう。
夫なのか、照夫なのか・・・答えを出さなくてはならないような気がした。
照夫の顔を見た。なんだか大騒ぎになってるのに楽しそうな顔をしている。
彼もまた、愛について再認識したのだろうか?
できれば、私を愛して欲しいなと陽子は思った。


翌日、次郎の家族の怒鳴る声が施設の中で響き渡ってた。
和子は低姿勢で頭を下げながらも、心の中で舌を出していた。
とりあえず迎えにいくしかないなと次郎の家族たちはうんざりした顔で、
ちかえの住む潮の浜温泉に行く事になった。長男と次男が同行することになった。
照夫と陽子も乗りかけた船なので、高橋家とは別に潮の浜温泉に再度行く事にした。
「ちゃんと帰れたかな、あの二人」
陽子は新幹線の中で照夫の手を握っていた。照夫も陽子の繋ぐ手を離さず握られたままにしていた。
どういう意味で陽子がこんなに長く手をつなぎたいのかわからないが、
照夫はなんだか離しちゃいけない気がした。

新幹線を降り、各駅停車に乗り換える。30分ほどで海のそばにある寂れた温泉街
潮の浜温泉に到着した。駅からは海沿いの人気のない小さな町を歩き、あの次郎が大きな荷物を抱えてくぐった桜並木を二人は同じように歩いた。