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海野ごはん
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オールド・ラブ・ソング

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「高橋次郎」




寂れた温泉街で帰りを待つ女が愛する「高橋次郎」は、都会の介護施設にいた。
息子夫婦は家での介護を嫌い、この施設に預けていた。
5年前から痴呆症を患った次郎は施設のテレビをぼんやり見ていた。
わかって見てるのか、ただ眺めてるだけなのか。
無反応な次郎にかまってくれるのは、時々気がついたヘルパーだけだった。
一日何も喋らず生気も失せた次郎がいた。

テレビからちかえの温泉街の番組の再放送が流れていた。
次郎にとって帰らなければならない、あの懐かしい温泉街だった。
何かに反応する次郎。チラッとちかえの顔が画面に見えた。
突然、次郎は「ちかえ~、ちかえ~」と声に出して反応した。
次郎の琴線に響いたらしい。なぜ叫んでいるかも自分でもわからないのだろう。
いつもと様子が違う次郎を気遣ったヘルパーは
「高橋さん、どうしたの?誰か知ってる人がいたの?」と聞いてみたが
ただ次郎は「ちかえ~、ちかえ~」と呼ぶだけだった。
それから毎日「ちかえ~。ちかえ~」と次郎は事あるごとに叫んだ。
呆けて老いた爺にみんなはそう興味を示さない、ここにいるのは殆どの人が老いているのだから。
次郎にとっては寂しい港だった。