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迷いの森

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 警察の話では携帯電話の電波は確認できないとのことであった。
(美咲は、携帯電話の電源を切っているのか?)
 真治はそんなことも考えた。美咲のうつ病は快方に向かっていた。この時、注意しなければならないのが自殺である。うつ病を患っている人の中には自殺願望を抱いている者も多く、病が軽快した時にその願望が残存していると、衝動的に自殺してしまうことがあるのだ。
(美咲には希死念慮はなかったはずだが……)
 長吉と山に分け入りながら、そんなことを考えていた真治だった。
 丹沢の自然は懐が深く、森はどこまでも続いていた。
(こんなところで迷ったら、間違いなく遭難だな)
 そんなことを思う真治であった。
長吉はぶっきら棒な男だった。それでも義理堅い性格であることは真治もよく知っている。だが、真治が遅れても待ってはくれぬ。長吉は稜線を目指していた。警察や山岳救助隊は、美咲が沢に転落した可能性が高いとして、沢筋を主に捜索していた。そこで、真治と長吉は稜線を中心に捜索することにしたのである。
 長吉はスタスタと、あたかも忍者のような足取りで稜線を目指していた。
「おーい、待ってくれ。ここらで休憩しよう」
「何だ、もうへばったのか?」
 長吉が厭味っぽく言った。真治は日頃の運動不足を実感していた。
「最近の若い者は体力がないな。美咲という奴もどうしようもない。入山カードすら書いていなかったらしいな」
「そんな責めないでくれ」
「ふん……」
 腰を下ろした長吉が握り飯を頬張った。真治は喉がカラカラだった。貪るように水を飲んだ。
「さあ、行くぞ」
 握り飯を一つ平らげた長吉が立ち上がった。真治がよろけながら立ち上がる。
「稜線まではまだあるんですか?」
「何、もうすぐだ」
 稜線までたどり着けば、アップダウンは少なくなる。そう思うと「もうひと踏ん張り頑張ろう」と思う真治であった。

 捜索は難航を極めた。美咲の名を呼びながら、稜線を歩いた。しかし、空しくもこだまが返ってくるだけであった。
「そろそろ、夕暮れだ。下山せねば」
 長吉が言った。
「もう少し、何とかもう少し捜索できませんかね?」
 真治が縋るように食い下がる。
「では、あとほんの少しだけ……」
作品名:迷いの森 作家名:栗原 峰幸