きっとすべてうまくいく 探偵奇談3.5
そういうところに気づけない自分に、副主将など勤まるのだろうか。そんな瑞の心理を察したのだろうか、郁が言う。
「須丸くんは、副主将だね。すごいね」
「俺なんかにできるのかなー」
「大丈夫だよ、神末先輩も一緒だし。須丸くん一年では断トツにうまいし、試合経験が多いから納得って感じ…」
そう言って彼女は鼻をすすった。
「なんか女子ら心配してたから、落ち着いたら戻ってやれよ」
「うん、アリガトー…」
ぐすぐすと鼻を鳴らしながら郁が涙をぬぐう。
いつも元気な郁が、こんなふうに落ち込んでいるのを見ると、さすがに瑞も心配になる。立ち直れるだろうか。いや、立ち直らなければいけないのだ。自分たちはもう子どもではないし、弓を引きながらそういう気持ちを乗り越える強さを育てている。
先輩たちと試合に出たかったと後悔している郁ならば、ちゃんと自分で立ち直るだろう。友人として、同じ部活の仲間として、瑞は彼女を信じていた。
「これ、貸してあげる」
「え、iPod?」
制服のズボンポケットから小さなそれを取り出し、イヤホンを抜いて郁の手に載せた。ひとつ前の古い型だけど、中学のころから重宝している。
「試合前で緊張してるときとか、結果が散々で落ち込んでるときに聴くんだ。弓道専用のプレイリスト。気休めだけど、元気出るかもしれないし」
音楽の力は偉大だ、と瑞は思う。歌詞に共感したり、メロディに元気づけられたり。弓道家ならばそれぞれに、集中法や平常心を保つ何らかの儀式を持っているものだ。瑞にとってはそれが音楽を聴くことだった。
「…ありがとう、聴いてみる」
「ん。じゃあ、あんま遅くなるなよ」
「うん。あ、待って須丸くん」
郁は同じようにポケットをさぐってピンク色のiPodを出し、瑞に渡した。
作品名:きっとすべてうまくいく 探偵奇談3.5 作家名:ひなた眞白