きっとすべてうまくいく 探偵奇談3.5
覚悟はしていた。三年生の引退。もっとたくさん教わりたかったのに。インターハイで勝ち進んだところで、別れはやってくることは変えられなかったけれど。
「おーい、泣くなー」
「まだまだしごきにくるからね」
先輩たちが後輩らの肩を抱いて励ましている。笑っているけれど、先輩たちも郁らの前に立つ前にはきっと涙を流したに違いないのだ。悔しさとか、今までの稽古の厳しさとか、喜びとか、そういった感情と一緒に。だから、本当は、後輩たちが泣いてはいけないのだとわかるのだけれど。
「郁ちゃ~ん。泣くなー」
「だってっ…先輩たちと試合出たかったです…悔しい…」
「そっか。うん。悔しかったか」
先輩たちは憧れで、それ以上に家族のように温かい存在だった。高校生になってから、毎日と言っていいほど一緒にいたのだ。純粋に寂しい。これからは受験に向けて突っ走っていく先輩たち。これまでのように、毎日顔を合わせたり、叱られたりすることもなくなってしまうのだ。
「宮川言ってたでしょ、強くなれよって。郁ちゃんたち、頑張ってね。ずっと応援してるんだからね」
励ましを受け頷く。先輩たちに教わったことを無駄にしないように、このひとたちに教わったのだという誇りを信じて、残された者は進むしかない。
作品名:きっとすべてうまくいく 探偵奇談3.5 作家名:ひなた眞白