きっとすべてうまくいく 探偵奇談3.5
それぞれの音
八月が半ばを過ぎた。郁(いく)ら弓道部員は、弓道場に集まっている。静まり返る道場には、蝉の鳴き声と、インターハイから戻った三年生が、結果を報告する声だけが響いていた。一年生と二年生は、その報告を、神妙な面持ちで聴いていた。俯く者、くちびるを硬く結ぶ者。郁もまた、同じように俯いている。
三年生のインターハイは、予選敗退で終わった。高校最後の大会が、夏が、終わったのだ。
「というわけで、これで俺達は引退ということになる」
主将の宮川の声は、いつもと同じで、冷静で落ち着いている。悔しさや、悲しさがないわけではないだろうが、やり切ったという達成感のためだろうか。後悔などひとつもない、そんなさっぱりとした表情。後輩たちと向かい合う三年生、誰もが同じような表情を浮かべていた。
「とはいっても、指導も自主練習あるし、ちょくちょく顔は出すけどな」
郁はうつむいた顔を上げられなかった。
もう、公式試合で先輩たちと組むことはない。郁の目標は、ついに叶わなかった。憧れの先輩たちの背中を追って、必死に稽古をしてきたけれど、駄目だった。
「新しい主将に、神末伊吹(こうずえいぶき)」
「はい」
「副主将に、須丸瑞(すまるみず)」
「はい」
呼ばれた二人が前に出る。少し戸惑いつつも、しっかりと主将を見つめる伊吹。その隣で、いつもはポーカーフェイスの瑞の瞳が、不安なのか戸惑いのせいなのか、静かに揺れているのが見えた。
「これは三年全員で話し合って決めたことだ。強くなれよ」
「はい!」
「以上、解散」
「ありがとうございました!」
伊吹の掛け声に合わせ、全員が声をそろえて頭を下げた。
「…ううっ」
堪えきれなくなった女子が嗚咽をもらし、それが連鎖していく。
作品名:きっとすべてうまくいく 探偵奇談3.5 作家名:ひなた眞白