きっとすべてうまくいく 探偵奇談3.5
「…俺、主将だってさ」
「うん、三年生全員の推薦だって言ってたね」
「器じゃないだろ、もっとうまいやついるんだし」
一晩考えたが、荷が重すぎる。あの宮川の率いていた部活を、今度は自分が?そんなこと、不可能だろう。もやもやする気持ちを払拭したくて、朝一番の弓道場に来たのに、後輩にもう愚痴をこぼす自分。これでは先が思いやられるというものだ。
「あなた以外考えられないでしょ」
あっけらかんと瑞が言った。
「技術云々じゃなくて、行動や人柄で、後輩たち引っ張ってくれる姿、宮川主将らも見ていたんだと思う」
射場の向こうの的を見つめたままで、瑞が言う。それはまるで、自分に言い聞かせているような話し方だった。
「俺もぶっちゃけ、副主将とか言われても何したらいいのってよくわかんなくて。伊吹先輩みたいに、気配りとかできないし、思ったことすぐ言っちゃうし」
ミルクティーの髪をかきまぜながら、瑞は言う。
「でも、やるしかない。背伸びしたって、自分にやれることしかできないって割り切ります。先輩たちがおまえならって指名してくれた自分なら、やれるんじゃないかなって、いまはそう思って踏ん張りますよ」
そう言って後輩は、にかっと笑うのだった。
「…すごいなおまえ」
「俺の集中用iPodに入ってる歌の歌詞にあるんです。きっとすべて、うまくいく、って」
きっとすべてうまくいく…
「不安な試合の日とかに聴くと、ちょっとラクになる。自分の中の見えない力が、ちゃんと頑張ってきた自分をいい方に導いてくれるから大丈夫、って」
作品名:きっとすべてうまくいく 探偵奇談3.5 作家名:ひなた眞白