お蔵出し短編集
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その犬はかつて と呼ばれた。
だが名前を失ったその犬は、今ではただの犬だった。
しかし、
『老けぬ犬』だった。
既にその犬は20年と云わない歳月を生きてきている。
なのにその姿は、ほとんど子犬の姿から変わる事はなかった。
その事に気付かれた時、『呪われた犬』として時に迫害され、その犬はひとつところに留まる事を半生にただの一度として許された試しがなかった。
その犬はかつて と呼ばれた。
しかしその真実の名を知るものは居ない。
そして、犬自身も自らの名を知る事はなかった。
それは『無いもの』とされた。
実に告げられるまでは、世界から消滅させられている。
それがその犬に課せられた呪いであり、邪悪だったからだ。
その犬はかつて、確かに と呼ばれた。