お蔵出し短編集
天国の囚人
ねえ、あたしがここに居るっていうことは、それがあたしには最高の罰なのかも知れないね。
だって、天国じゃあなたに会えないから。
神様って残酷。
あたしが抗えないことを知っていて、ここに置くんだから。
ひとを殺めたあたしがここにいることに、あたしはずっと違和感を感じていたけど、でも、きっとそうなんでしょう。
天国は平和で、安らかで、暖かい。
でも、あなただけはどこにも居ない。
あたしが本当にいて欲しいあなただけは、絶対にここには居ない。
安らぎなんて得られなくても、
夜に怯えて眠ることになっても、
果てしない残酷があり得る世界であっても、
裏路地があらゆる邪悪の住処であっても、
そこにあなたがいるのなら、
あたしはきっとその方が良い。
流した涙が白い大地に染み込んで、含まれる哀しみが真綿を色付けるようにそれを灰色に変えていく。
いつかあなたに届くなら、あたしはきっと泣くし、ずっと想うでしょう。
それとも、
あたしに科せられた罰が永劫に続くモノなら、
あたしはきっと、時の終わりまで天国に住み続けるのでしょうね。
あなたがいない世界で、
あなたがいない永遠の中で、
あなたが欠けた安らぎの中で、
満たされない半身は、遥かに震えるような心地で。
それがあたしがここにいる訳。
きっと永遠を生きるための理由。
それがあたしが項垂れて微笑む理由。
届かない地平への焦がれが、あたしへ課せられた罪への罰。
滴る涙は涸れず途切れず、
灰色の空から注ぐのはきっと、
いつだってあたしの、
あなたへ向ける、枯れることのない愛。