お蔵出し短編集
人の生き死にはそれがどんなものでも自然の摂理とすら言え、それがあることは当たり前なので僕だって受け入れる。
ただ、僕にとっての不幸はそれが起きたときに僕が眠り続けていたことだ。
僕は叔母が息を引き取り、埋葬され、遺影としてでしかその姿を確認できなくなった世界に目覚めた。
すべてが終わってからこの世界に舞い戻った僕には、悲しむための実感すら得られなかった。
ただ僕と僕にまつわる世界が少しだけ色を失い、叔父は僕の家に姿を見せなくなり、僕の家の駐車場に止まっていた軽四は永遠にその姿を消し、叔母が半ば自室としていた客間は整理されて殺風景な一室になってしまった。
そして僕は大学に進学した。
第一志望校には合格できなかったが、それでも地方の公立大学には滑り込めた。
軽音楽のサークルに籍を置き、ギターを買って練習を始めた。
そのサークルの飲み会の席で何となく僕は『叔母と仲が良い』という話をすることになった。
興味を持って聞いてくれた人間は少しだけ怪訝そうな顔をしたり、僕と叔母が三つしか歳が離れていないと知ると、少しだけ下品な顔の歪め方をして微笑んだりしたが、とどめに僕が叔母の『永遠の不在』をそっと告げると、ばつが悪そうに顔を歪めて適当に話を切り替えにかかった。
『叔母と仲が良い』というと、そもそも変に聞こえるものなのだろうか?
それ以来、この事を誰かと話す度、そんなことを僕はしばしば思う。