お蔵出し短編集
僕が目を覚ましたとき、薄ぼんやりと見えたのはひび割れのような模様をしたどこかの天井だった。
ぼやける頭で自分がなぜそこにいるのか、どうして、どこで何をしていたのかとゆっくり考えていると、叔母の笑顔の印象と葡萄の香りが混ざり合いながら、僕の内側でゆっくりと冷たい湯気のように立ち上っていた。
そして、衝撃と、轟音と、暗転―――。
「ああ」
と僕の口から声が漏れた。
そしてもういちど、ため息の延長のような掠れた音が
「ああ」
と僕の口から漏れた。
脱力というのとも少し違う、底の抜けたバケツの中に気力という水を満たそうとするかのような、空回りする心と体の歪な食い違いを覚えながら、僕は目を閉じた。
その瞬間までの事実は認識した。
ただ、それ以降の経過を知ることがその時の僕にはとてつもなく怖かった。