お蔵出し短編集
驚くべき事には、僕たちはその建物の中に結構な時間留まっていたらしかったことだ。
あれこれ見ていると確かに退屈はしなかった。
だけど昼過ぎに出かけてそれなりにドライブがてら移動したにしても、車に乗り込み発進してみると、空を行く太陽の位置ががもう西の地平に近づいていることに気がついたときには、少しだけ唖然とした。
魔法にかけられたかのような不思議な時間の過ぎ方を感じた。
『葡萄の街』とかそんな言葉が頭を過ぎった。
実際には街でも何でもなく、一軒の建物に過ぎなかったにしても、そこで過ごした時間は濃密で、浦島太郎のような気分を僕に覚えさせた。
叔母も同じように感じているのだろうか?と僕はふと思った。
何となく盗み見た叔母の横顔はオレンジ色を帯び始めた光に鼻から下が照らされて、妙に大人びて見えた。
そう、叔母は僕の『叔母』なのだ。
三つしか歳が違わなくても、僕の叔父の妻で、僕よりもはるかに人生というものについて多くのことを知っている人物だ。
それを表すのに言葉は重要じゃない。
僕がそう知っていれば僕は叔母への敬意を失わずにいられるだろう。
狭い軽四自動車に満ちるのはひたすらに葡萄の香りと、居心地の良い二人の沈黙と、カーステレオから流れる流行の音楽くらいだった。
日常の平穏の延長に幸せがあるのなら、この時、この瞬間の僕は間違いなく幸せだった。
だから、