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お蔵出し短編集

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叔母が運転免許を取ったのは結婚してからのことだったと思う。
叔父と結婚したときに叔母はまだ大学生だったが、結婚を機に中退した。
理由はもっぱら『家庭に入るため』と言うことで、叔母は学生と主婦という二足のわらじを履くことを良しとしなかったためだ。
実際、叔母が行っていた大学は中以上、いやはっきりランクとしては上の方の大学だったし、僕としてはその思い切りの良さはちょっと驚くに値した。
でも叔母の価値観からすれば『大学の在籍』と『結婚生活の両立』は正しいことではないそうで、いささか堅物っぽく感じた僕がその理由を尋ねたところ、叔母は自身が『一つのことに集中しないと結果が出せないタイプ』と自分を分析していると聞いたことがあった。

曰く、

「チョコレートのケーキとレアチーズケーキがあって『どっちも美味しそう』って思っても、一緒に食べるのって勿体無くない?だって後から食べた方はお腹がいっぱいになって絶対美味しくないし、だからって一口ずつ交互に食べると味が分からなくなるし。それなら私はどっちか一つを集中して食べたいの」

ということらしい。

スイーツとやらで例えられる人生訓というのもアレだなと思いながら、言いたいことそれ自体については決して間違っていないと思える辺りに『叔母の信念』を感じて僕も勝手に納得した。
叔母の家は極端に貧しくはなかったが裕福でもなかった。
だから、叔母は結婚まで自動車運転免許を取ることが出来ず、自動車学校に行くようになったのも叔父がそうさせたからだ。
叔父は仕事柄自分が留守がちになることは叔母に告げていたし、だからこそある程度の行動の自由を確保するためにも、叔母は運転免許を持った方が良いという考えかららしかった。
しかして、叔母は車を持ち、息抜きと称しては受験生の僕を時々誘ってはあちこちドライブに出かけた。
その日その時もそんな風にして、僕は叔母が運転する軽四乗用車の助手席に滑り込むことになった。
作品名:お蔵出し短編集 作家名:匿川 名