お蔵出し短編集
幻想夢幻譚
酒を飲み、酔っ払って、千鳥足で、帰る。
繁華街を出る少し前、暗がりで、ふとその子に気がついた。
・・・中学生?
今は、何時だ。
とっくに日付は変わっている。
金属製のダストボックスのそばに、ゴミの据えたような臭いも気にならないのか、両膝を抱えて座り込んでいる。
黒っぽいTシャツに色の濃いジーンズ。
顔は膝に埋めているが、醸し出す雰囲気がどうしようもなく幼い。
高校生以上であることはないだろう。
誰もこの子に気を止めない。
この格好なのに、醸し出す絶望が、まるでカメレオンのように、
・・・ひっく・・・
その場の雰囲気に、空気に、溶けている。
他の酔客が声をかけないのも納得だ。
何しろ、面倒だし。
こんな子供に声をかけるのは、繁華街を警らする暇な警察官くらいだ。
少年補導で上司の点数稼ぎってか。
むしろ、声でもかけててそんなのと鉢合わせて、何とか条例なんてので捕まったりでもしたら、こっちがバカを見る。
だから、通り過ぎる。
オレは家に帰るだけだ。
平和なおうちには、渇いた喉を潤すコップのお水と、敷きっぱなしのお布団が、オレの帰りを待っている。
だから、
その子が顔を上げたとき、
不意打ちだったんだ。
その子はまっすぐオレを見た。
どこに目を回すわけでもなく、まるでオレが見つめていたことを知っているかのように、膝に埋めていた顔を、目を、射るように、オレに向けて、
「助けて」
なんて言われた日には、オレはどうすれば良かったんだ?