お蔵出し短編集
少女と葬列と鉄パイプ
ガラン、とアスファルトの上を、何かが引きずられる音がした。
何というか、それは無造作な音だった。
在ることは自然な、でも、聞くような機会は限られそうな、そんな世界に向けて『放り出された』ような音。
だから僕は、そっちに目を向けた。
霧雨が降る中、モノクロームの人の列が、道路のあちらの角からこちらの角まで長く長く続いている。
その中で、右の脇に傘の柄を挟み、小柄な白い右手の中に文庫本を開き、軽く俯くようにしてその中に目を落とす少女に気がついた。
喪服の群れの中にただひとり、セーラー服に身を包み、肩のラインの青色が、白黒の世界の中でただひとつの色合いのように僕の目に映った。
儚げな、線の細い、失礼な物言いをするならば、『薄幸』という言葉が似合いそうな、ともすれば存在感の薄さから向こうが透けそうな少女。
だが、その左手はと言えばどうだ。
掴んでいるのは、引きずっているのは、僕の見間違いでなければ、それは錆びた長さ1メートルほどの『鉄パイプ』だった。