お蔵出し短編集
僕は、一瞬ためらいを覚え、そして、
なぜか母の方を振り返った。
それを手に取るには、母の顔色をうかがう必要がある。
なぜか僕には咄嗟に、いや、半ば反射的にそう思えたのだ。
母はと言えば、また母で、書棚の本を箱詰めにし始めていた。
僕は、
そっと引き出しの奥に手を突っ込んだ。
そして、その紙束を引き出した。
しかして、それは確かに手紙だった。
宛名を見ると、そこに綴られていたのは―――
見覚えのある父の筆跡で、控えめに書かれた母親の旧姓だった。
僕は、母に声をかけず、しかし、
隠すこともまたせず、
その手紙の束から、一番上のモノを開き、読み始めた。