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お蔵出し短編集

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確かに父は家を建てた。
しかし、その家には、およそ南国土佐にそぐわないモノがあった。
それは、『暖炉』だ。
勿論、高知県といえども冬は寒いし、雪が降る事もある。
しかし、暖炉なんて使うような程ではないし、少なくとも煙突が付いている家なんて僕はこの土地の中で他に見た事がない。
だけど、それだけは父にとって譲れないところだったらしい。
昔観た映画で、暖炉を囲む家族が本を読む姿か何かが非常に心に焼き付いていたのだとか、理由としては実に他愛もないことだが、そう言う話だった。
母は反対しなかった。
以後の生活費として余裕を持った2億円を残して、家を建てるのに使う残金から、宝くじを当てた本人が『趣味に基づく願いを一つだけ叶えてくれ』と言った事に、母が理解を示したからだ。
だが、結局そんな暖炉が使われたのは家を建てた最初の一年だけだった。
何しろ暖炉は案外手入れが大変だし、灰の掻き出しなどだけでも床が汚れたりしたため、声に出される事はなくとも僕と母、つまり『家族一同』にそれが不評な事は一目に瞭然だったことがある。
だから父は、暖炉については『そこにある』と言うだけで満足した。
この家の主として、それは意向が叶えられた証であったし、夢を叶えた証明でもあったからだ。



こうして僕らは、『暖炉の付いた南国の家』で、ひっそりと生活をする事になった。



―――しかし、長くはなかった。


作品名:お蔵出し短編集 作家名:匿川 名