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お蔵出し短編集

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通りの角を曲がると、そこはもう真由美の家の玄関だった。
小さな庭を抜け、玄関の茶色のドアを真由美が開ける。
「ただいまぁ」
真由美が家の中に声をかける。
もちろん家の中から返事はない。
習慣のようなものなのだろう。
「お邪魔します」
僕は真由美にそう言って、玄関で靴を脱ぐ。
「私の家に来るのって、初めてだよね」
廊下にあがった僕に真由美がそう声をかけた。
「結構大きな家だよな」
僕がそう言うと、真由美はにこりと笑った。
家の中は視界がかなりはっきりしていた。
真由美が生活をしていた空間だから当然と言えば当然かもしれないが、町並みや学校とは違って、壁紙や調度品のひとつひとつまでかなり丁寧に再現されている。
この世界に紛れ込んで、初めて実世界との違和感がゼロに近くなった気がした。
階段を上がり二階に行く。
突き当たりの右側のドアを開けて、真由美が中を手で示した。
「ようこそ、ここが私の部屋」
そこはフローリングの、比較的簡素な部屋だった。
だがしかし、明るい色のベッドのシーツや机の上のちょっとしたピンク色の花の飾り、それに窓際のレースの模様などが、やはり女の子らしさを感じさせた。
「お邪魔します」
玄関と同じ台詞を口にして、僕は一歩彼女の空間に足を踏み入れた。
形容の使用のない、真由美の匂いがした。
甘くて丸みを帯びたような、微妙な香り。
「そこにかけてて、飲み物を持ってくるから」
真由美はそう言って、部屋の中のちゃぶ台の方を方を示した。
僕は座布団の上に座った。
真由美はきびすを返して部屋から出て行った。
あっと思う間もなく、その瞬間僕は真由美の視界から消えてしまった。
だが、僕の体は消えなかった。
僕は真由美の意識の中で、存在し続けているらしい。
気が付けば部屋の中が微妙に暑くなってくる。
真由美が緊張しているからなのだろうか?
「自分の部屋の中にいる僕」と、真由美は強く意識している。
漠然と、しかし雰囲気でそう知れた。
一瞬の間をおいて、真由美が帰ってきた。
手に持つお盆には、カップに注がれたコーヒーが湯気を立てていた。
「インスタントで悪いんだけど」
真由美はそう言って僕の目の前に、水色のカップを置いた。
「別にいいよ。ありがとう」
僕がそう言うと、真由美は不意に身を乗り出してきて、僕にキスをした。
作品名:お蔵出し短編集 作家名:匿川 名