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お蔵出し短編集

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唇が重なり、甘い感触がそこから波紋のように顔中に広がる。
つかの間の官能。
そっと真由美の唇が僕の唇から離れた。
「何か、変なの」
真由美が妙に困惑したような顔でそう言った。
「何かって、何が?」
「私にも分からない・・・でも、まるで透が、透じゃないみたいで。・・・ううん、そうじゃない。透が、いつもよりもっと透みたいで。さっきからずっとそうなの。学校で、透と話をしてたとき辺りから」
僕は、真由美の言わんとすることの意味が分かった。
真由美も気が付きつつあるのだ。
僕が真由美の「空想の透」ではなく、もっと何か異質なものであることに。
真由美に真実を告げるべきなのか、僕はもう少し迷っていた。
僕自身が今現在、迷子のような存在なのだ。
夢の世界に迷い込み、どうやって目覚めればいいのか分からなくなっている真由美と、どうやってその世界へたどり着いたのか分からない僕。
もしかしたら僕は、真実の話をすることで真由美の心を引き裂くかも知れない。
ここが、この夢の世界が現実だと思いこみ、実に4年という歳月を過ごしてきた真由美。
しかし真由美は僕という存在から、確実に世界の違和感を感じ取っている。
ここが夢の世界であることを教えても、真由美に帰り道が見つかるわけではない。
むしろ、自分が昏睡状態であると知り、受ける動揺の方が大きいかも知れない。
ふと、真由美が僕を抱きしめた。
ちゃぶ台が動き、コーヒーカップが倒れる。
「何だか分からない」
真由美は僕の旨に顔を埋めてそう言った。
その声が涙声であることに、僕は気が付いた。
「何だか分からないけど、すごく・・・透が愛おしいの。いつも会ってたはずなのに、今日の透は何だか違うの。なんて言えばいいのか、本当にもどかしい。やっと・・・やっとあなたに会えたような気がするの。どうしてかな。おかしいよね」
真由美はそう言って、肩を震わせて嗚咽した。
「暖かいんだよ、なんて言うのかな・・・。いつもの優しい透じゃなくて、もうちょっと変に・・・ぎこちなくて、でもそんな感じが・・・なんでだろ、今まで無かったんだよ。もうずっと、長いこと感じてなかったんだよ。そんな気がするの。・・・変かな?」
僕は、真由美の体を抱きしめ返した。
僕の腕の力を感じて、怯えたように真由美が身をすくめた。
やっと、今真由美は、真由美の世界は「ふたり」なのだ。
僕は彼女の孤独を思い、自分の今までの無力に静かな怒りを感じていた。
真由美を抱きしめ、真由美の唇を感じたその時、僕の中で決意が出来た。
「話をしなくちゃ、いけないんだろうな」
僕は、かみしめるようにそう言った。
そしてそっと真由美の制服のリボンに手をかけた。
真由美は拒まなかった。
むしろ、おずおずとだが僕の方に身を寄せてきた。
それが彼女の答えだった。
作品名:お蔵出し短編集 作家名:匿川 名