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お蔵出し短編集

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その瞬間、世界が暗転した。
まるで映画のようなフェイドアウト。
何が起きたのかも分からないまま、僕は気が付けば今度は路地を歩いていた。
僕たちが歩いた通学路だ。
真由美の夢が場面転換したのだろう。
僕は真由美の夢の中ではあくまで客体なのらしい。
僕は真由美と一緒に歩道を歩いていた。
おぼろげな車が車道を適当な感覚で走っては、霞がかるようになって消えていく。
町並みはさっきよりもだいぶおぼろげな存在になっている。
何気なくうつむいたとき、驚いて一瞬自分の目を疑った。
自分の体が、町並みのように霞がかっていたのだ。
「真由美!」
慌てた僕が名前を呼ぶと、真由美は僕の方を振り向いた。
「なに?」
僕の体は、真由美に見られた瞬間に完全な実体となっていた。
そうだ、ここは真由美の夢の世界だ。
真由美の意識から消えた瞬間にどうやら、僕は消滅してしまうのかもしれない。
もちろん消滅した先でどうなるのかはまた分からない。
しかし元の世界へ戻れるという保証はない。
どうやって来たのか分からない道は、辿って元へは戻れない。
もちろんそれも純粋に恐ろしい。
だが同時に僕は今、「真由美の夢の中」という信じられない奇跡の世界にいるのだ。
何故ここへ来ることが出来たのかは分からない。
でも、せっかく来たのなら、何かを掴まなくては僕は一生後悔することだろう。
彼女を起こさなくてはいけない。
二人でこの世界から脱出しなくてはいけない。
今の現実のすべてを真由美に告げることはその方法のひとつだろう。
しかし僕はためらっていた。
ありのままを真由美に告げることが果たして解決になるのだろうか?
夢の世界へ入り込み、出口を見失ってしまった真由美。
今の僕がそこへ「入り込んだ存在」であること告げることは、今の真由美の世界のすべてを言うならば根底から否定することになるのだ。
「透?」
ふと気が付くと、呼びかけられてそのままになっていた真由美が不思議そうに僕を見ていた。
「今日・・・その、家に遊びに行ってもいいかな?」
僕がそう言うと、真由美はちょっと驚いたような顔をした。
そしてやや下の方を向くと、ひとつ咳払いをして口を開いた。
「今日さ・・・私の家って親がいないんだ。仕事で出かけてて」
真由美は、ちょっと照れくさそうにそう言った。
「一日中?」
僕は真由美に聞き返した。
「明日の夕方まで帰ってこないよ」
僕が見つめると、真由美はいたずら好きな子供のような顔で僕を見て微笑んだ。
作品名:お蔵出し短編集 作家名:匿川 名