お蔵出し短編集
スタジオでは、眉根を寄せた若手芸人が司会者の方を見ていた。
司会者である中年芸人は、
「カットだな、こりゃ」
と呟いた。
若手芸人は自分の出演場面がカットされたことに露骨な怒りを見せ、手にしていた携帯電話を床に投げつけた。
その携帯電話はバキッと音を立てて壊れ、ひな壇に仕込まれた歓声役の劇団員が刎ね飛んできたプラスチックの破片を避けようとして身をよじり、
「はーい。30分休憩でーす」
ととってつけたようにディレクターの指示を受けたアシスタントディレクターが大声を出した。
スタジオの端では、彼のマネージャーが深々としたため息をついていた。
「なんのために僕の携帯からかけたと思ってるんだよ。『電話ドッキリ企画』くらい、着信メロディと発信者名から察してくれるくらいのアドリブもないのか、あいつは」
それは不幸な事故で仕事を失いかけていた彼に対して、マネージャーが持ってきた芸能界復帰の足がかり企画だった。
これがうまくいけば、彼は少なくとも家庭のお茶の間からは愉快なところのひとつもあるのだと認めてもらえるきっかけになるかも知れないと、そのマネージャーは目論んでいた。
だが、結果は惨憺たるモノだった。
そしてマネージャーは彼に文句のひとつでも言ってやろうかと思ったが、その為の電話機はたった今若手芸人がスタジオの床にたたきつけて壊してしまっていた。