お蔵出し短編集
冷静になって、僕は思った。
300万円。
きっとアレはいたずら電話だろうけど、しかし、それでも、
300万円。
もしもそれが真実ならと考えると、ちょっと、手の届きそうにない、
300万円。
まあ、気にしても、仕方がない。
落ち込んで、街に一人で、
陽の暮れを迎える頃に、
僕は自分の明日に繋ぐ橋は、結局自分しかないのだと思い知る。
まず絶対にそんなことはないだろうけど、
―――もしも、4.5リットルの水道水が届いたらどうしよう?
そんなことを思いながら顔を上げたとき、ふと目の前にいた知らない女性と目が合った。
その人は、心配そうな顔をして僕を見ていた。
後ろめたい思いを抱えて街を歩いているときにはついぞ見ることがなかった、それはきっと優しい目だった。
だから僕は言った。