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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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刹那にゆく季節 探偵奇談3

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「ちゃんと思い出したいんだ。いろんなことの根っこが、全部そこに起因してる気がするんです。最近、ずっとそれを考えてる」

喧騒が遠くなっていく錯覚。瑞の言葉は、まるで別の世界から響いてくるようで、現実味がなかった。何か思い出しそうになって、言葉にできそうなのに、飲み込むしかない。

「…射法八節ってさ、一個一個に意味とか語源があるんだよ。会(かい)と離(はなれ)って、対の言葉でしょ?会う、離れる」

弓道の定められた八つの動き。それが射法八節だ。突然話題が変わり、伊吹は戸惑う。

「それが、なんだ…?」

瑞の言う会とは、弓を引き分けて静止した状態で。
離れとは、そののち矢を発する動作のことだ。

「会者定離っていうんだって。命あるものはいつか必ず死ぬ。出会ったものとは、いつか必ず別れが来る、って意味」

ああ、なんか一年生のときに先輩から聞いた記憶がある。

「どうして死ぬのに生まれるんだろうね。別れるのに、出会うんだろうね」
「…いつか失うことを忘れないで、限りある時間や命で後悔のないように生きろってことなんじゃないか」

死ぬために生まれるわけではない。命はそういうものだけれど、気持ちは決してそうではないと思う。同じように、別れることを想定して、心を交わす者などいないだろう。

「そうだね…」

瑞が、寂しそうに笑った。ああ、また何か思い出しそうになる。この顔をやっぱり自分は知っているのだ。目を瞑って気のせいだと、そう言い聞かせているうちに、卒業して瑞との関係は終わるだろう。それでいいのだと思う。だけど、思い出せないことが、小さな棘として自分の人生に残っていくのだということもわかる。その棘を、後悔と呼ぶのだ。