キミをわすれないよ
いつのまにやら『ケイ』と名乗り始めた携帯電話型の彼女は――もう僕は彼女の形態を 何と形容してよいものかわからない――僕のところに来てから話したかと思うと、ずっと喋らなくなったりする。その不具合の原因がよくわからなかった。
充電切れかと 摩擦充電って可笑しな言い方だけれど優しく擦ればいいらしく、なでなでしてみるのだけれど、『満タン』と表示が出る。
「なんなんだよ」
僕は、電源を切り、ポケットにねじ込んだ。
部屋に戻った僕は、『ケイ』をベッドの上に置きっぱなしのまま、パソコンを開いてお気に入りのサイトに飛んでいた。自分宛てのメッセージポストには、今日は誰も入力してくれていなかった。
「世間はクリスマス気分だよなぁ」
いつもなら、メッセージを送るとその日の内には返事が届く人からもなかった。少し妬けてきた。
会ったこともない相手に妬くという感情は可笑しいと思っていたが、サイトで親しくちょっと本当の自分を見せてしまうと、感情を理解してもらえたり、共有した気分になったりしていくようだった。相手の嘘も真に受けているかもしれないし、もちろん僕自身の本当のことを語っても嘘だと思われているかもしれない。なのに やっぱり信じてやまない。
僕は、キーボードから手を離し、腕組みをして溜息のような深呼吸をした。
「誘われたパーティに行ってみれば良かったかもな…… な、ケイ…」
そういえば、ベッドに置いたままのケイは 電源が切られたままだったことを思い出した。
僕は、手を伸ばし、ベッドの上のケイの電源を入れた。
本体の端っこの緑色のランプの点滅を始めた。まるでケイが呼吸をしているかのように感じた。それとも ケイの鼓動かもしれない。いずれにしても 僕には息づいているように見えていた。
「ケイは、どんなクリスマスを夢見てるんだい?」
「お気に入りのあの人も今頃はクリスマスケーキを食べているかな?」
「そういえば、チョコレートケーキが好きって言っていたっけ? タルトだったかなぁ」
「明日の点灯式 ケイは見たいかい? ははは、見られないか。僕も仕事だ」
僕は、言葉の出すたびに淋しくなっていく自分の馬鹿さに苦笑した。