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キミをわすれないよ

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家の駐車場に入る手前から車のヘッドライトをスモールランプに変え、敷板をゆっくりと踏み駐車場に停車させる。毎日のことでもう慣れたものだ。
以前なら気になっていたエンジン音も 昨今の車はずいぶん静かになってありがたい。
車を降りる音よりも、コンビニのビニール袋のほうが騒がしいくらいだ。
「おっと、忘れちゃいけないな」
僕は、羽織ったジャンパーのポケットに携帯電話風のそれを突っ込み家へと入っていった。

リビングの入り口にコンビニの袋をそぉっと置き、洗面所へ行き手を洗う。ハンドソープは泡で出てくるものの ごしごしと擦るとすぐに泡は消えてしまう。それほど汚れているのかと再度泡をつける。冷たい水を飛ばしながらジャバジャバと洗うとやっと仕事を終えた気分で気持ちいい。柔軟剤の効いたタオルは、ちょっと拭きにくく苦手だが良しとしよう。

まだ、誰も起きてこないリビングで、まだ冷めていないコンビニの弁当を食べ始めた。
弁当を半分ほどたいらげると、少しは思考も回るようになってきたようだった。
「そうそう、いったいこれはどうなっているんだ?」
ジャンパーのポケットから 落っこちそうになっていたそれを取り出し眺めた。

そもそも 買った時から携帯電話としているけれど、いったい何をするものなんだろう。
そうだ、そもそもなんだ。
取扱説明書は……。内蔵されている……。起きている時に訊く……。
店主は、そう言った。訊いてみるしかないが、どうやって訊く?

「起きてるのか?」
何もしゃべらない。やっぱり疲れていた所為で そんな幻想を見てしまったのか!?
「起きていますか?」
少し振ってみた。
『いやん…もう… 優しくないわ!』
「あ、あぁびっくりした」 
『彼女を起こすならもっとあるでしょ? そんなんじゃぁ…。まぁいいわ。なぁに?』
「訊きたいことがあるんだけど いいかな?」

これで話が訊けると思った、そんな時だった。
「あ、お兄ちゃん 帰ってたの? おはよう」
「おお、おはよう。起こしちゃったか?」
「ううん、ちょっと目が覚めたら声が聞こえたから。もすこし寝る。おやすみ」
「おやすみ」

僕は、急いで残りの弁当をかきこむと、空容器を流し台に片付けた。
それを手に握り、自分の部屋へと入ってベッドの上に置いた。
「見つからなくて良かった」
『もう、手に汗かいちゃっているんだもの、じっとりしてたわ』
「わぁ! 悪かったなぁ」
『わぁ。ちゃんと拭いてね 』
僕は、ティッシュペーパーで ふにゃっとした表面を拭ってやった。

作品名:キミをわすれないよ 作家名:甜茶