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キミをわすれないよ

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仕事場に着いた。
僕は、助手席の携帯電話の電源をOFFにすると、タオルをかけて車を離れた。

そもそも 買った時から携帯電話と言っているけれど、いったい何をするものなんだろう。
登録をするわけでもなく、使い方もよくわかりもしないのに欲しくてたまらなかった。
早く仕事が終わって、調べたい。知りたい。触れたい?

作業中は、気が抜けない。ラインに乗って動く部署もあるし、納期にも追われる。ましてこの時期は年内に終了させなければならない。さきほどまでの気に掛ることを頭から排除して没頭していった。そのおかげか時間は、思ったよりも早く過ぎたように感じた。
「お疲れさん」
それぞれに作業場を離れ、暗い外へと散っていく。僕もまだ熱っぽい体を冷気にさらし、心地よく車へと向かった。助手席に置かれたタオルを取り、顔を拭った。それからその下に置いた携帯電話風のものの電源を入れた。
音楽でも流れれば良いものを、反応もない。ただ電源がはいったらしいことは緑色のランプが点滅していてわかった。ずっと車内に置いてあったので表面は冷えていた。自分の手元を温めるように携帯電話風のものも一緒に擦り合わせた。
『おかえりなさい』
「わぁ!しゃべった」
『わぁ。お話ししましょ』
「きみは誰なんだ?」
『誰なんだ? いまの質問はおかしいわ。あたしはあなたの彼女です』
「僕の彼女?」
『そうでしょ? 違うの? 淋しい…』
「ちょっと待って。まずは家に帰ろう。きっと僕は疲れているんだ」
僕は助手席にそれを放り出し、駐車場を出て家路を急いだ。
途中、これを買った店の前を通った。走りながら見た店の扉は、見間違えたかと思うほど扉の木枠は朽ちてペンキは剥げ落ちていた。
もちろんこんな夜中のこと、閉店していてあたりまえで、明かりも灯っていなかった。
僕は気を紛らわすつもりで ひとり言を始めた。 
「今日は 腹減ったなぁ。夜食は菓子パン一個だったし、忙しかったし」
『アタシも寒かったわ』
「車の中に置きっぱなしだったからね。……ってなに会話してるんだろう?」
僕の中で不可思議な現象が起きているにもかかわらず、もう驚いたり怖かったりするのも気にならないくらい疲れていた。
「コンビニくらいしか開店(や)ってないか。きみは何か食べる?……なわけないか」
僕は、途中のコンビニの駐車場にはいり、車を降りた。
店内で、弁当を買った。帰宅したらすぐに食べられるように店で温めてもらった。
「お待たせ。さて帰ろうか」
話しかける誰かが居て 何だか僕は心地いい気分になっていた。

作品名:キミをわすれないよ 作家名:甜茶