キミをわすれないよ
「あ、ケイは?」
電源を切ったままのケイがベッドの上で二つ折りの体がやや開いていた。ケイが、自主的にできることではない。おそらく、昨日僕が電源を切り、放った所為だろう。
「電源を入れたらケイのやつ きっと『ごめんね!お願いだからONにしていて』なんて言ってくるかもしれないな。そうしたら 恩にきせて お!電源入れてONにきせてって駄洒落も快調。何か言ってやろうかな」
僕は、ケイの電源を入れた。
「ケイ、おはよう」
確かに緑色のランプは点滅をしているというのに 何も喋りはしなかった。
「ごめんよ。ケイ。機嫌を直してくれよ」
僕のほうが 謝るほうになってしまった。その後も僕は、歯を磨く、食事をするなど日常の何をするにも、ケイを意識してしまっていた。
出勤の時間だ。
ケイのことは、胸ポケットに入れておくことにした。僕の胸元でケイのランプが息づいている。幸せを感じた。僕の鼓動と同じ速さのような気がして嬉しさが込みあげた。
車中からは、まだ点灯式前のツリーが見えた。仕事後は、点いているだろうか。
その願いは、まだ暗い帰り道に叶っていた。
誰もいない公園の中で電飾を装った樹木がポーズをとっているかのように立っていた。
「ケイ、綺麗だね。ケイと一緒だからかな」
『ねえ、ケイには 淋しさや悲しさを紛らわせるために遊んで欲しい?』
「一緒にいるじゃないか」
『一緒だけど 仲良し? 仲良くならないと遊ぶことはできないよ』
ケイの口調が やや悲しげに聞こえた。
「それなら ケイはどうして 僕が趣味の話とかネットで知った面白い話の時は反応してくれないんだい? ケイのほうが 僕と仲良くなる気なんてないんじゃないのか?」
『子供の心を失ってしまった大人になってしまっているから』
「はあ? またわからないこと言う…」
『淋しいときには、自分の気持ちと向き合ってる。幼い時からの自分を見つめて一生懸命どう乗り越えてきたかを探してる。だからケイはお話する。語りかけてあげる』
僕はその答えなど考えもせず、しばらく眺めようと思っていた電飾に彩られた公園を出て家に帰った。
疲れた。ただ眠い。いや 寝てしまおう。
ケイとのいさかいが腹立たしくて布団にはいった。