眠りの庭 探偵奇談2
ぼんやりしているうちに着いていたらしい。村のはずれの坂道の上に、こじんまりとした平屋が建っていた。車が何台も止められるほど広い玄関先に、ひまわりが咲いているのが見えた。
「大丈夫か」
「はい。先輩、ありがとう。助かりました。気を付けて帰ってくださいね」
頭を下げた彼が玄関をくぐったのを見届けてから、伊吹は自転車を反転させた。気づけば山際が夕焼けに染まっていた。くっきりとしたオレンジが、空を染め上げていて美しかった。一番星が光っているのを見つける。
「先輩ごめん、待って待って」
坂の上から瑞に呼び止められた。
「これ、うちのじいちゃんが作ったトマト。先輩自転車だから、たくさん渡すと迷惑だから…少しだけど持って行って。普通にかじるだけでも、結構甘くてびっくりするよ」
「ええ?うお、すげえ」
ビニール袋に、つやつやと輝くトマトが入っている。見るからに瑞々しくて、ふわりと甘い匂いまで香る。フルーツトマトとかいうやつか?
「うまいから」
「…ありがとう。家族が喜ぶよ。じいちゃんによろしく伝えてくれ」
「ん」
ゆっくり休めよ、と声をかけてから自転車に跨った。
作品名:眠りの庭 探偵奇談2 作家名:ひなた眞白