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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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眠りの庭 探偵奇談2

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嘆く瑞から、彼の死んだ祖母が身につけていたというイチジクの香水の匂いがする。珍しい匂いだ。少し癖があるけど、上品で甘いのその匂いが、伊吹は嫌いではなかった。匂いそのものというより、この一見軽薄そうな後輩の、亡きひとの名残をまとっていないと不安になるのだという、その子どもっぽいところがなんだか好ましかったからだ。大人っぽい外見にそぐわぬ幼い印象。ちぐはぐなところが、なんだか和む。

「先輩んちってどこなの。俺、まだこの街詳しくないけど」
「おまえのとこと真反対だよ。西の新興住宅地」
「そうなんだ。あのでっかいショッピングモールがあるとこ?」
「そう」

人口が増え、山際は開発が進んでいる。静かな町が徐々に近代化していくのを、伊吹は幼いころから見てきた。しかし町の反対側は今もまだ自然豊かな緑が色濃く残っている。瑞はそこで、祖父と二人で暮らしているという。

国道が山道に逸れ、大きな川ぞいに田んぼが見え始める。

「須丸、起きてるか。これどっちの道だ?」
「あ…右っす」

国道をそれると小さな集落がある。地蔵の佇む田んぼ道を走った。カエルが鳴いている。小学生らしき集団が、タモを片手に畦道を走り回っていた。

「川田さんちの田んぼ、でっけーカエルが採れるんです。それであいつら、狙ってんの」
「へえ」
「もうすぐしたら、蛍も見られますよ。夏は川で魚も釣れるし」
「いいとこだな」
「うん、俺、ずっと昔からここが大好きなんですよ」

虫の鳴き声と、風に木々がざわめく音しか聞こえない。静かな集落だ。のら猫がのんびり歩き、畑仕事帰りの人々が道で足をとめては和やかに笑いあっている。

(日本人って、こういうのに懐かしさを覚えるもんなのかな)

伊吹は田舎に親戚を持たない町育ちだ。だけど、この光景に郷愁というのか、そういったものを覚える。

(それとも俺のなかのどこかに、記憶が残っているのかな。須丸のことを、懐かしいと思うのと同じに…)

この転校生に感じる既視感は、日に日に深まるばかりだった。心のどこかが、何かが、それに抑制をかけ続けるのだが、瑞を知れば知るほど鮮明になる懐かしさに伊吹は困惑する。それはごくたまに見せる子どもっぽい笑顔を向けられたときだったり、弓を引く時の凛とした横顔を見たときだったり。

「この上です。こっから坂だから、ここまでで大丈夫です」