眠りの庭 探偵奇談2
「伊吹先輩」
名前を呼ばれて振り返ると、夕焼けにそまった瑞の髪が柔らかく風に吹かれているのが見えた。
(あ、)
一瞬何かを思い出しそうになり、だけど感覚は一瞬で霧散して、思考はその速さにおいつけない。
「また、明日」
「うん」
言葉を交わして、互いに背を向けた。
いつかもこうして背中を向けて。
「…」
振り返った時には、もういなくなっていたことが、あったような気がする。
そのまま二度と会えなかったような、気がする。
明日も会える。当たり前だ。
それなのに、どうしてそんなふうに感じるのだろう。泣きそうになる自分が理解できない。伊吹はその場所をしばらく動けなかった。
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作品名:眠りの庭 探偵奇談2 作家名:ひなた眞白