眠りの庭 探偵奇談2
「……俺、今なんか言いました?」
「はあ?大丈夫かおまえ。なんかブツブツ言ってたぞ」
「は…?」
寝ぼけてやがる、と友人らが笑う。しかし伊吹は心配だった。いつも鋭い瞳が、なんだか遠くを見つめたままだからだ。
「もー着替えなくていいよ。そのまま帰れ」
「眠くって自転車こげない…俺、ここ泊まっていきます…」
「おいおいおい」
それはさすがにダメだろう。
「家どこだよ」
「え、先輩送ってくれるの」
「こんなとこ泊まられたら、弓道場使用禁止になるだろーが…」
仕方ない。ちゃんと家に帰るまで見届けないと心配だった。ふらふら寝ぼけて、自転車で車にでも突っ込んだら大事である。けだるそうに歩きながら、瑞はなんとか駐輪所まではついてきた。
「後ろのれ」
「でも、ニケツって駄目じゃなかったです?」
「仕方ないだろ、もし見つかったらおまえに脅されたって言うからいい」
「ひどいな先輩。でも、ありがとうございます…」
坂道を、ブレーキをかけながらゆっくりと下る。後ろの重みで、バランスがうまくとれない。
「おまえ重いんだけど!」
「すみません、185センチもあって。なんせ185センチあるから」
「…ムカツク!ここで振り落とすぞ」
坂道が終わると、ようやくふらつきが止まった。商店街の大通りは避け、伊吹は自転車をこいだ。夕焼けが眩しく山の稜線を染めている。
「夏休みですね、もうすぐ。楽しみだなー」
「インターハイ、からの練習試合に合宿&補講授業。夏休みも忙しいぞ、うちは」
「…まじすか」
作品名:眠りの庭 探偵奇談2 作家名:ひなた眞白